“博士大集合、みんなで海に泳ぎにやってきたよ。その上、キクコのお手製弁当付き、イエ〜イデー”

 

*ウチキド博士がオーキドとキクコの後輩というオリジナルの設定があります。

 

 

 

 

 

 「暑いな〜。」

 「暑いのう。」

 「暑いですね。」

 「暑いなあ、もう。」

 「本当に暑いわ。」

 「……。」

 今日は“博士大集合、みんなで海に泳ぎにやってきたよ。その上、キクコのお手製弁当付き、イエ〜イデー”である。

 「略して、キクコのお弁当を食べる会!」

 「うおっほん!オーキドくん、それは略というより、君の願望を如実に表しているだけではないのかね?」

 「いや〜、はっはっは〜。」

 ふざけているのか、本気なのか分からないオーキド博士の発言に、きちんとナナカマド博士はつっこみを入れる。

 その隣では、準備体操を始めている、オダマキ博士とウツギ博士。

 「ウツギくんは、この“海に来たんだけど、実のところのお目当てはキクコさんのお弁当という噂会”に参加するのは、初めてだよね?」

 「はい。それにしても、それほどまでにおいしいんですか、キクコさんのお弁当は?」

 「ああ、絶品だよ。ウチキドくんはぺろりとお弁当5つは平らげるね。」

 「えっ!?5つも!!?」

 「あはは、大丈夫だよ。君も食べてみれば、2つは入るんじゃないかな?」

 「いえ、僕はどちらかというと、食が細い方ですから。」

 そこで、オダマキ博士は、ウツギ博士の背中をばんっと叩くと、大きな声で笑いながら、

「平気、平気。お昼になれば分かるよ!」

と言った。

 「ご、ごほっ!そ、そうですか?ま、まあ、まずは一泳ぎしてきましょう。」

 「そうだね。」

 

 一方――

 

 「キクコ先輩、お久しぶりです。」

 「ああ、ウチキド、元気そうだねえ。」

 「はい、おかげさまで。」

 「そうだ、この前のあんたの論文読ませてもらったよ。ポケモンの生態及び進化におけるオレンジ諸島の今後の課題について、よくまとめられていたんじゃないのかねえ。」

 「ありがとうございます!!ところで、あの……。」

 ウチキド博士は控えめに、だが、ちらりとキクコの手元を見ながら話した。

 「ああ、これかい?あんたは食べっぷりがいいからねえ。はりきって作ってきたよ。」

 「重ね重ね、ありがとうございます。毎年、キクコ先輩の手作りお弁当が食べられるなんて、私、幸せです。」

 ウチキド博士はトロンとした目をますます緩ませて、お弁当に向けて、熱い視線を送っている。

 「あんたも大げさだねえ。」

 「でも、申し訳ないとも思うんです。おいそがしい中わざわざお越しいただくだけじゃなくて、ここまでしていただいて……。でも、私、私、わ・た・し・は、食べる専門なんです〜〜!!」

 食べ物のことで、ヒートアップしてきたウチキドをなだめるかのように、キクコは片手を振る。

 「いいんだよ。そもそも、ナナカマド博士からの誘いじゃ断れないからねえ。」

 「欠かさずここにいる全員をお誘いになりますよね、ナナカマド博士は。私も、普段は離れたところで、研究しているだけあって、先輩方のお話を聞ける貴重な機会になっています。」

 それを聞いたキクコは、幾分柔らかい表情を見せた。

 「確かにね。海に来たことも、暑さも忘れて、いつの間にか、浜辺で議論をしているからねえ。みんな研究のことばかりで頭がいっぱいになっている奴ばかりさ。」

 すると、ウチキド博士は思い出したかのように、手で口を押さえた。

 「ふふっ、そうですよね。お昼のこともすっかり忘れて、みなさん、熱くなって口を動かしていましたけど――。」

 キクコがフッと笑った。

 「そう、あんただけが、あたしの方をちらちら見てたよねえ。目当てはお弁当だったようだけどね。」

 「はいっ!私、食べないとだめなんです。元気が出なくなって、集中力も下がるんです。」

 「それであたしが、そっ、と、お弁当を全員の中央に置いたら、みんな黙ってお弁当を見つめたからねえ。」

 「あははっ、そうでしたよね。その後、みなさんのお腹が鳴って……まあ、私も何ですけど……。」

 ウチキド博士は、笑いが収まったところで、羽織っていたパーカーを脱いだ。

 「ところで、キクコ先輩は今年も泳がないんですか?」

 「あたしはいいよ。こんな暑い中、パラソルから出る気にはなりゃしないよ。」

 「それにしても、暑くありませんか?普段と同じ格好をされて……せっかくなんですから、半袖ワンピースなどもお召しになったら、素敵だと思いますよ。それに――。」

 「何だい?」

 いたずらっぽく笑うウチキド博士。

 「オーキド博士も喜ばれると思います。」

 「う、うるさいねえ。どうつもこいつもあたしとあいつが昔ライバルだったからって、今は――。」

 「“見る影もない。”ですか?」

 「そうだよ、全く、今のあいつと来たら……っ!!」

 ぶつぶつそう言いながら、オーキドを見たキクコが急にうつむいたので、ウチキド博士は首をかしげた。

 ――が、すぐに

(ああ、そうか。恥ずかしいのね。)

と、赤くなったキクコの顔を見ながら思ったのだった。

 

 終わり。

 

 「なんじゃと〜!ここで終わりとはどういうことじゃ!!まだ、お弁当を食べておらんだろう!?」

 「ん?お弁当なら、先ほど食べたではないか、オーキドくん。」

 「えっ!?」

 「はい、もうそれはおいしくて、おいしくて、生まれて初めてお弁当を2つも食べてしまいました。」

 満足そうにお腹を撫でているウツギ博士。

 「そうですよ。やっぱり、キクコさんのお弁当は最高ですね〜。」

 おいしい物をたくさん食べることがウチキド博士の次に好きな、オダマキ博士も、これまた至極なひと時だったと見て分かるような満面の笑みを浮かべているではないか。

 「わしは、わしは食べておらんぞ?」

 騒いでいるオーキドにキクコは淡々と言葉を放った。

 「あんたの横に確かにおいたよ。それで、あんた『おお、楽しみじゃのう。』って言ったじゃないか。」

 「……う〜む、そう言った気もするが……。」

 「言ったよ!」

 なぜか、ムキになるキクコ。

 「そうですよね。私、見てましたよ、オーキド博士が笑顔でキクコ先輩のことを見ながら、とってもうれしそうになさっていたのを。あれは忘れられませんよね。キクコ先輩。」

 「あんたは関係ないだろう!」

 「ふふ、すみません。」

 「それにしても、お弁当がないのも一大事じゃが、何より、なぜキクコはそっぽを向いて話しとるんじゃ?浜辺に来てから、一度も目を合わせんし、声をかけても嫌がるではないか。」

 「それはいつもと同じだと思うぞ?」

 「ナナカマド博士……。」

 さらりとそう言ってのけるナナカマド博士に対し、苦笑いのオダマキ博士とウツギ博士であった。