僕もあるよ。
僕はポケモンに語りかけていた。
「ナナカマド博士から聞いたんだけど、最近、ヒカリのポケモン図鑑の登録更新が思わしくないんだって。
何かあったのかな〜?」
パチパチと火花の音がする。
暗い森の中で僕はポケモンたちと夕飯の時間を迎えていた。
「昼間はいいんだけど、夜の森は正直こわいよね。」
弱気なことを言う僕に周りにいたポケモンは
心配することはない!私たちがいるんだから!!
というように、羽を動かしたり、両手を上げたり、首を動かしたりしてアピールをする。
僕はその姿を見てすっかり勇気づけられて、
「よ〜し!じゃあ、みんなご飯にしよう!!」
といつもよりかは大きな声でみんなに呼びかけた。
ガサッ!!
びくり!と僕の体がふるえた。
知識には自信があるけど、ポケモンバトルにはそこまでの自信はまだない。
じっと物音がする方を見つめている僕。
するとすぐにあっけにとられるような出来事が僕を待っていた。
「!!?」
「わはー、やっと出られた〜。」
生い茂った葉の間から現れたのは、先ほどまで噂をしていたヒカリだったのだ。
「ヒカリ!」
「あー、奇遇だね、コウキくん。」
僕はヒカリの側に駆け寄り、そのボロボロな様子に目を見張った。
「何があったんだい!?」
「う〜ん、よくわからない。」
とりあえず、ヒカリをたき火の前に座らせ、僕はばんそうこう等を取り出そうとバックを開ける。
「コウキくん。」
両ひざを両手で抱えて座っているヒカリは、炎を何気なしに見ている。
「なんだい?……あっ、あった。ええと、消毒液とばんそうこうと……。」
ヒカリが顔をひざにうずめて体を縮こまらせたので、僕は慌てた。
「ヒカ……。」
「お腹すいた。」
それはそれは小さな声で。
「え?あ、あああ、待って、今、ごはん、ちょうどで、ねえ、みんな!?」
僕はみんなに話を振ると、出来上がったばかりの温かいスープをヒカリに差し出した。
「ありがとう。」
ふうーふうーとヒカリは息をふきかけて、冷ましながら飲んでいる。
しばらくして僕も食事を始めた。
半分ほどスープを飲んだところで、ヒカリはぽつぽつと話し始めた。
「ごめんね。」
「何が?」
「いきなり出てきて、お腹すいたなんて……かっこう悪い。」
僕はカップを握りしめた。
何があったのかは知らない。
でも、ヒカリはどう見ても元気がない。
だけど、僕にはかける言葉が見つからない。
(こういう時、どうしたらいいんだろうって、いつも考えちゃうんだよな。)
側にいたポケモンのうち、誰かが僕をつついた。
「ん?」
少し経って、それが何を意味するかに気がついた僕は思わず叫ぶ。
「あ――!!ごめん。みんなのご飯、まだ出していなかったよね!?」
僕が急いで、みんなに謝りながらご飯をあげ終わる頃には、ヒカリは飲み終わっていた。
「ごちそうさま。どうもありがとう。」
「いやいや、いいんだよ。みんなで食べた方がおいしいし……え〜と。」
そこで、僕の頭に電球がついた。
「そうだよ!僕だって、『かっこう悪』かったよ。」
「え?」
ヒカリの表情がちょっぴり変わったのを僕は見逃さなかった。
そして、僕は珍しく勢い良くしゃべった。
「ほら、ヒカリが『お腹すいた。』って、言った後の僕の反応とか、みんなのご飯をあげ忘れてて、慌てふためいたりとか、
ねっ?僕だって、十分『かっこう悪い』だろう?」
身振り手振りをつけて話す僕に、ヒカリは微笑んだ。
初めて見たさびしそうなヒカリの笑顔。
ヒカリは僕の顔から目をそらし、木々のすきまからかすかに見える夜空を見て言った。
「ここのところ、まだ見たこともないポケモンに全然会えないの。」
「うん。」
「ポケモンバトルも負けることが多くなったし。」
「うん。」
「それに――。」
「うん。」
ヒカリは目線を炎に移し、そこで黙ってしまった。
僕はためらったけれど、思ったことを口にしてみることに決めた。
「言ってごらんよ。」
「…………さびしいの。」
つぶやくようにヒカリは言う。
「みんなと一緒に旅をするのは楽しいし、ひとりじゃないってわかってはいるつもりなんだけど……。」
「僕もあるよ。」
「!!」
ヒカリにはこの一言があまりにも意外だったようだ。
「たまに人恋しいって言うか、
遠く離れていてもこれまで出会ってきたみんなとつながっていると頭では理解しているはずなんだけど、
なんかひとりな気がするというか、常にポケモンたちはいてくれるんだけど、
それだけじゃなくて……そう、僕だってヒカリと同じ気持ちになることがあるよ!」
最後の方は無意識のうちに、ヒカリの目を見て言っていた。
最後には、ヒカリも僕の目を見て話を聞いてくれた。
実際には、完全に同じ気持ちかどうかはお互いにわからないと思う。
それでも、僕は本心を言ってくれたヒカリに思いを返したかったんだ。
「コウキくんもそういう気持ちになる時があるんだ。」
「もちろんだよ!それに、ポケモン図鑑がちっとも埋まらなくてあせったり、バトルで何連敗もしたりすることだってあるさ。」
僕はポケモン図鑑を手元に置くと、多少傷ついてきたそれを愛おしくなでた。
「それでも、みんながいるから、こうしてばったりヒカリに会ったりするから、前に進めるんだ。」
ヒカリも同じようにポケモン図鑑を持つと、図鑑を開いた。
「私もそうだな。今日、コウキくんに会えて良かった。」
「……ゆっくりでいいと思うよ。僕もヒカリと話していたら、おかげでだいぶすっきりしたよ。
今日まではバトルで負けっぱなしだったけど、明日は勝つぞ〜!!」
「じゃあ、コウキくんの気合いが入ったところで、早速、明日になったらポケモンバトルを申し込んでみようかな?」
こぶしを上げていた僕は
「ええっ!?」
と素直に驚きの声を上げる。
だって、ヒカリの方が僕より断然、バトルの腕前がいいからだ。
何はともあれ、ヒカリの笑顔が灯りのついたような色に変わったので、僕は満足したのだった。
気持ちを共感してくれるコウキくんに感謝。