それが大事だ!
「父さん、聞いた?」
「何がだ?」
「このところ、どうもヒカリが元気ないんだって!」
「それはいかんなあ。」
トウガンとヒョウタは地下で化石掘りに熱中している。
「あっ!化石、発見!!」
「おっ!化石、発見!!」
「わあ!べにたま発見!!」
そこで、3つの声が重なった。
『ん?べにたま!?』
トウガンとヒョウタが声が聞こえた方を向くと、数メートル先には、ピンクのコートに白い帽子を被った少女がいた。
「ヒカリじゃないのかな?」
「ヒカリだろうな?」
ならばっ!!
と、どちらが先とも言わずに、猛ダッシュでヒカリの所へ行くジムトレーナー2人。
「ヒカリ、化石は見つけたのか(い)(ッ)!!」
「きゃあ!?」
突然、左右からそのように迫られて驚かない者はいない。
化石に関して言えば、この2人を除いては……。
「ちょっと、父さん、ヒカリが怖がっているじゃないか!」
「何を言う、おまえがやけに至近距離で話しかけるからだろうが!」
「ええと……。」
ヒカリはどう対処すれば良いのか思案していたが、
相手が勝手に話を続けてくれたので、ある意味助かったのだった。
「そうだ、ヒカリ、ワシの化石を見てくれ!立派だろう!?」
「僕の化石だって負けてないよ、そうだろう、ヒカリ!?」
「……どちらも同じように見えます。」
苦笑いで申し訳なさそうに、本音で答えたヒカリ。
「そうか。」
「そうかい。」
途端に、しょんぼりする2人のジムリーダーを見て、ヒカリは言葉を探した。
「で、でも、いいですよね。私、まだ化石は掘り当てたことがないんですよ。」
『なんだって!?』
息の合ったハーモニーを見せる2人。
「ならばワシの出番だな。」
「それなら僕に任せてよ。」
「む?」
「ん?」
1秒と経たないうちに、2人の間には火花が飛び散り、間に立たされているヒカリはたまったものではない。
「父さん、ヒカリには僕が、いかにすてきな化石とすてきな出会いができるすてきな化石の掘り方を教えるよ。」
「笑わせるな!そのような化石の掘り方はワシにしかできんのだ!!」
「う〜!!」
「ぐ〜!!」
「お、落ち着いてください、トウガンさんも、ヒョウタさんも!」
意味のないことだとは思ったが、ヒカリは両手を開いて、その場の空気をなだめるような動きを取った。
「……だ、そうだぞ、ヒョウタ。おまえも一人前のジムリーダーなら、常に冷静に行動しなければいけないぞ。」
「その言葉、そっくりそのまま、父さんに返すよ。」
「何を!?」
ぎゅっとヒカリはこぶしを握った。
「いいかげんにしてください!私、けんかしている人からは教わりたくありません!!」
『あっ!!』
2人はそろって頭をかき、うなだれた。
「ごめんね、ヒカリ。だけど、化石掘りはとても楽しいんだよ?」
「すまないな、ヒカリ。よかったら、3人で化石掘りをしてみないか?」
ヒカリはめったにないチャンスに首を大きく縦に振った。
「ぜひ!喜んで!!」
その後――
「う〜ん、化石が出ないなあ。」
「なぜだ〜、化石が出ないぞ〜。」
「え?トウガンさんもヒョウタさんも、ずいぶんと化石を掘り出しましたよね?」
その割には、2人の表情は晴れない。
「いや、ヒカリが……。」
「いいんですよ!私、こうしてみんなで化石掘りをするの好きですよ、楽しいです。
それにきっといつか見つかると思いますから!!」
「くう〜、ヒカリは健気だなあ。ワシは感動している。ワシも化石掘りが大好きだ〜!!」
「僕だって、化石掘りが大好きだ〜!!」
ところ構わず叫ぶ化石好き親子に笑いながらも、ヒカリは気分転換にまた地下に来てみようと思ったのだった。
「うむ、化石を掘り、化石と出会い、化石を愛する、そうすれば、自然と元気になれるものだぞ!!」
「僕もそう思うよ。ヒカリ、また今度やってみようよ!!」
化石掘りというすてきな事を改めて教えてくれたトウガンさんとヒョウタさんに感謝。