私にできること

 

私は今、ミオシティの図書館に来ています。

さすが大きな図書館だけあって、ここに来ると私の探しているものがほとんどあるような気持ちになります。

心が落ち着くんですよね。

 

そう言えば、しばらくしたらヒカリさんがポケモンリーグに挑戦をしに来るかと思っていたのですが、来ませんね。

前に会った時は、とても輝いていて、やる気も目に見えてありましたし、私も楽しみにしていました。

彼女とのポケモンバトルはおもしろいのです。

まだまだいろんなことを吸収中の時期だけあって、毎回違った形で楽しめるのです。

これから使うポケモンも変わってくるかもしれませんし、

彼女のバトルのやり方に新しい何かが加わるかもしれません。

そう考えただけで、オーバではありませんが、胸が熱くなるというのも分かるような気がします。

 

「ふむ。」

 

ゴヨウは手に取った本を棚に戻し、窓の外を見た。

 

確かオーバが言うには、彼女はここ最近、元気がないとの話でしたね。

迷ったり、心が揺れたりするというのは、人なら誰しもあることです。

ですが、それがあまり長く続くと大変です。

心の元気は、体の元気にもつながっていますから。

ひとりでは解決できないことも、誰かに話すことによって見える場合もあります。

 

もしも、そのうち彼女に会う機会があれば、

私にできることでしたらして差し上げたいのですが、

何分、ヒカリさんがどこにいるのかが分かりませんからね。

 

「せめて、彼女にとって良さそうな本がないかどうか探してみましょうか。

ここにある本なら、いつでも気が向いた時に読みに来ることができますからね。」

 

そう言って、ゴヨウは3階から2階、そして、1階へと、ゆっくり本棚を見渡して

気になった本を手にしてはページをめくり、また本棚に戻すということを繰り返していた。

 

「おお、これは私が読みたいと思っていた内容じゃありませんか!」

 

「そうですね、これは興味深いですが、難解と言えば、難解でおすすめするのは……。」

 

「む!ここにあったのですか。もう一度読みたいと思っていた本が見つかって良かったです。」

 

しばらくして、ゴヨウは1階にある椅子に腰かけた。

机上には本の山がある。

だが――。

 

「さてさて、どうしたものでしょうか。1冊だけとは……。」

 

いえ、本の冊数は問題ではないと思うのですが、

結局、ヒカリさんのためというよりも、私自身が読みたい本ばかりに目がいってしまいましたよ。

 

「それに――。」

 

何より、私はヒカリさんとポケモンバトルがしたい。

彼女を元気づけたいという気持ちに嘘はありません。

同じポケモントレーナーとして、ポケモンを愛する者として、

それから、そういうのを抜きにしても人として

私は彼女に元気になってもらいたいと思っています。

ですが、やはりバトルも……。

 

「ふうむ、困ったものです。自分の気持ちは偽れないものですね。」

「何をそんなに悩んでいるんですか?」

「わっ!?」

 

背後からの投げかけに、ゴヨウはつい取り乱してしまったようだ。

聞き覚えのある声に、メガネをかけ直し後ろを振り返ればヒカリが立っていた。

 

「ああ、ヒカリさん。」

「お久しぶりです。」

「そうですね、ごきげんいかがですか?」

「まあまあ……です。」

 

ゴヨウがよくよくヒカリを見てみると、文字通りあまり調子が良いとは言えないらしい。

(そうです。この時のための本……あれ?どこに混ぜてしまったんでしょうか!?)

たくさんある本をひっくり返し始めたゴヨウにヒカリは遠慮して、軽くお辞儀をすると、挨拶の言葉を告げた。

「ゴヨウさん、おいそがしいようなので私はこの辺にて……。」

「あ、いえ、待ってください!あなたに渡したい本があるんですよ。」

「私に……?」

予想外のことにヒカリの目が見開いて、くりんと光った。

ゴヨウはそれを見てうれしそうな顔になる。

ようやく目当ての本を見つけ、ゴヨウは立ち上がると、ヒカリの方に向き直った。

そして、両手を添えて、ヒカリにその本を差し出す。

「はい、これなんですがいかがでしょうか?」

「ゴヨウさんのおすすめ……ですか?」

「ええ、この本は本当におすすめです!」

同じく両手で受け取ったヒカリは、本ではなく、ゴヨウをじっと見つめている。

「……ええと、私、何か変なことを言いましたか?」

「しゃれですか?」

きょとんとしているゴヨウと、自分の発言を恥ずかしく思い、本で顔の半分くらいを隠しているヒカリ。

(しゃれ?『この本は本当におすすめ』が……?ああ、なるほど。そういうことでしたか!)

ゴヨウは机に置いたままの本を全て抱えてると、力強くうなずいた。

「もちろんです!!」

「ほ、本当ですか?」

「そうですよ。いやはや、気がついてもらえないのではないかと心配してしまいましたよ。」

「ふ、ふふふ……。」

そこでヒカリは堪えきれなくなったようで、肩を震わせ、もれる笑い声を抑えるべく、口を手で覆った。

「ふむ。満足していただけたようで何よりです。」

「『満足』ってゴヨウさん……。」

「そんなにおもしろいしゃれでしたか?」

「しゃれがおもしろいと言うか、だって、ゴヨウさんが……くっく……。」

「私ですか?……あ。」

思った以上に元気になったヒカリを喜ばしく思いながらも、入り口にいる司書の厳しい視線を感じたゴヨウ。

「さ、さあ、ヒカリさん、そろそろ行きましょうか。」

「くく……そうですね!!」

ゴヨウ、そして、ヒカリは本を借りるための手続きを早急に済ますと図書館の外へと出た。

 

「ゴヨウさん、この本、本当にありがとうございます!」

「いえいえ、お気遣いなく。こちらこそヒカリさんの元気な姿を見て、元気をもらいましたよ。」

「それから、先ほどのしゃれも私、忘れません!」

「いえ、それは忘れてくださっても――。」

ヒカリは深呼吸をした。

「あの……いつになるかはまだ分からないですけど……。」

「なんでしょうか?」

「また、ポケモンリーグに挑戦したいと思っていますので、どうぞよろしくお願いします!!」

ゴヨウはそれを聞いて心底喜んだ。

「はい!いつでもお待ちしていますよ。あなたとのバトル、楽しみにしています!」

 

 

私のことを考えていてくれて、さらに、未来の楽しみまでくれたゴヨウさんに感謝。