久しぶりにお会いしたキクコさんが元気のない様子だったので……。
(わたくし、心配です。)
見間違いかもしれませんが……。
(遠目でしたし……。)
「あっ、きれいなお花。」
そこはいつも通るお花屋さんの前でした。
思わずひとつ取り、色豊かな花を見つめます。
(キクコさん、喜んでくれるかしら?)
「あの、お願いします。」
わたくしは、そうして、一束の花を抱えながら、ポケモンリーグへと向かったのでした。
「すみません。」
「あら、エリカさん。どうしたの?」
門の近くで偶然にもカンナさんにお会いできました。
いきなりの訪問でしたので、少し安心したわたくしです。
「その……。」
来るだけ来ておいて、肝心の方のお名前を口にするのに戸惑ってしまったわたくし。
(やはり、お節介でしたでしょうか?)
「フフ、キクコね。キクコなら部屋にいるから、さあ、遠慮せず入っていらっしゃい!」
カンナさんはわざわざ扉を開けてくださいました。
わたくしはドキドキしながら、久々のポケモンリーグに足を踏み入れます。
「おっ、エリカくんとは珍しいな。」
「ワタルさん、ご無沙汰しております。」
深々と頭を下げるわたくしに、ワタルさんは目を細めて言いました。
「ようこそ、ポケモンリーグへ。そうそう、キクコなら部屋にいると思うよ。」
「あら、それはさっき、私が伝えたわよ。」
「なんだ、そうなのか。」
「ウー!ハーッ!!」
いきなり聞こえてきた唸り声に、わたくしの体はビクンと震えました。
「ははは、驚かなくてもいいよ。シバが修行に夢中になっている証拠だから。」
「そうなのですか?」
「なんだ、みんなそろって。」
「シバさん、ごきげんよう。」
「おや、エリカじゃないか。キクコなら――。」
「もう伝えてあるぞ。」
「ん?そうか。」
「どうもありがとうございます。」
「ところで、どうしたんだい?」
「え?あ、あの……その……キクコさんがお元気かと思いまして……。」
しどろもどろのわたくしとは違って、お三方は口々に言いました。
「すごく元気だよ。書類を1文字ミスしただけで、5時間のお説教を食らったからね。」
「私もうっかり1部屋丸ごと凍らせてしまったから、それ以上のお小言をもらったわ。」
「俺は鍛練に集中する余り、声をかけられても気がつかず、散々文句を言われた。」
「そうですか。わたしくの勘違いだったのかもしれません。ただ、明日からオーキド博士がシンオウに行かれるそうなので、てっきり……。」
「ええっ!?まさか、さびしいとか」
「なにっ!?まさか、切ないとか」
「うぐっ!?まさか、恋しいとか」
「ないわね。」
「ないな。」
「ないだろう。」
「あの〜みなさん……。」
わたくしが言葉につまっていますと、みなさんは苦笑いをしながら、
「ともかく、せっかく来たんだから、キクコのところに行っておいでよ。」
とわたくしの背中を押してくださいました。
「はあ〜。部屋まで来たのはいいのですけれど、急ですし、ご迷惑なのではないでしょうか?」
わたくしは、抱えたお花を持ち直しました。
(親しい友人ではないのですから……。でも、ここまで来たんですもの。せめてご挨拶はしていきますわよ!)
きりりと精一杯のりりしい顔をして、わたくしはキクコさんの部屋のドアをノックしようとしたのですが、ドアが開くのが先でした。
「なんだい、エリカじゃないか。」
「きゃわっ!!」
「ボーっと突っ立ってないでお入りよ。」
「し、失礼致します。」
「そこにお座り。」
「あ、ありがとうございます。」
「じゃあ、あたしはお茶でも淹れてくるよ。」
(ここがキクコさんのお部屋なんですね。初めて入りましたわ〜。)
「……はっ!?い、いいえ、めっそうもな……あら、キクコさん、もう行ってしまわれていましたわ。」
わたくしは「ふう。」と一息つきました。
(とりあえず落ちつきましょう。)
そして、しばらくうつむいてじっとしていたのですが、はしたないとは分かっていても、我慢ができませんでした。
ちらりと横を見ると、
「まああ!あれは若い時のキクコさんとオーキド博士のお写真ではありませんか!!」
思わず感嘆の声を上げたわたくし。
ぱっと口を手でふさぎました。
「わたくしったら……。」
(ですが、あのお写真、気になりますわ。あのように飾っていらっしゃるんですもの。やはりキクコさんは……。)
わたくしが、勝手にあれこれ想像していると、再びドアが開いて、キクコさんが入ってきたのでした。
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