*シロナはシンオウリーグのみんなが好きですが、とりわけキクノが大好きです。
カツカツと高い靴音がする。こちらに近づいてきているようだ。
「ねえ、ゴヨウ。何をしているの?」
「本を読んでいるんですよ。」
「ふ〜ん。」
見れば分かるのに。なぜそのようなことを聞くのだろうか?
そのまま私はしばらく本を読んでいました。
けれど、彼女がじっとこちらに視線を合わせたままだったので、仕方なくしおりを挟み本を閉じました。
「何か用ですか?」
「別に。」
シロナさんはそう言って、断りもなく私の隣に座りました。
いえ、座ったことは座ったのですが、やけに近いのです。
(確かにこのソファーは2人掛けですけど、それにしても近過ぎる。)
私はコホンと席払いをしました。なぜか照れくさくなったからです。
「ゴヨウ。」
「は、はいっ!?」
「もうすぐクリスマスね。」
「そうですね。」
「クリスマスかぁ。」
彼女は前を向いたまま呟くように言いました。
そして――
こてん。
彼女の頭が私の肩に当たりました。
(え?ええっ!?)
この状況について行けない私。
どくんどくんと胸が高鳴っていくのが分かります。
(ど、どうしよう!?)
そうです。彼女は来た時から、変でした。
“変”なんて言ったら怒られるのは当然ですが、それでもそうでした。
今日の彼女はしおらしいのです。
いつもの元気で、聡明で、頼りになって、それから――。
「キクノさん、クリスマスには帰って来るのかしら?」
それから、今日はシロナさんが大好きなキクノさんがお出かけの日でした。
「ああ、もうキクノさんの手作りお菓子が恋しいわ。あとちょっとで、3時になるって言うのに……。」
「あの……。」
「くすん。」
彼女が頭を動かして、私の肩に頬をこすりつけました。
「シロナさん……。」
「さびしいわ。」
そして、お互いの目が合った。
潤んだ彼女の瞳。
私は、思わずドキっとして、顔が赤くなりました。
「シロナさん。」
そっと彼女の肩に手を置きました。
「ゴヨウ?」
「大丈夫です。4時までには戻って来ますよ。」
「本当!?」
「本当です。」
途端に彼女の顔がぱあっと明るくなって、
「ゴヨウ!ありがとう。大好きよ!!」
という叫びと共に抱きつかれました。
「!!?」
シロナさんはすぐには離れません。
いいのでしょうか?よくないのでしょうか?
今の私には判断できない……。
私は決心したように両腕をシロナさんの背中に回し――。
「そうだわ!!」
「へっ!?」
私は情けない声を出しながら、万歳しました。
「キクノさんがいつ帰ってきてもいいように、お茶の準備をしておかないと!!ゴヨウも手伝って!!」
「は、はい。」
「ああ〜、早く帰ってきてください〜!キクノさ〜ん!!!」
あっという間にシロナさんの姿は見えなくなりました。
…………。
「うふふ、シロナったら、ゴヨウに告白してたでしょう?おばあちゃん、聞いてしまったわ♪」
「告白だなんて……。私は、1番がおばあちゃんで、2番目がキクノさんで、3番目が……。」
「ゴヨウ?」
「う〜ん?キクコさんかしら?でもまだよく知らないし……まあ、ゴヨウもそこそこ好きだけど――。」
「ふふっ、無自覚さんね!」
「え?な、なんですか!?」
(私としたことが陰でこっそり聞いているなんてはしたない。けれど、出て行くに行けません。とりあえず……3番目の座はせめて守り通したいところです。)
「ゴヨウ。そこにいるんでしょう?おばあちゃんたちと一緒にお茶にしましょう。」
「は、はいいっ!すぐ行きます!!」
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