早朝訪問

 

朝だ。

今日はいい天気のようだ。

あたしは眠い目をこすって伸びをした。

(5時か……まあ、起きてもいいだろうねえ。)

掛け布団を持ち上げて、あたしは床に置いてあるスリッパに足を入れた。

「さてと――。」

「あら、キクコちゃん、おはよう。」

「おはよう。」

聞きなれた声に対して、反射的に返事をするあたし。

「ん!?あ、あんた、キクノ!なんでここに……!!?」

「おほほほほ、そんなに驚くなんて、キクコちゃんは相変わらずおちゃめねえ。」

『相変わらず』とキクノは言ったが、これまで一度もそのようなことを言われた覚えはない。

思わずたじろんだあたしに構わず、キクノはどこからから持ってきたのだろうか?

小さなテーブルを前に正座しながら、のんびりと熱い緑茶を飲んでいるのだった。

「……。」

あきれて言葉が出ないあたし。

「キクコちゃんもお茶、飲む?」

にこにことしながら、キクノが問いかけてきた。

あたしは片手を横に振りつつ、「いらないよ。」と断る。

「まあ!」

キクノは一瞬悲しそうな表情を見せたが、すぐに柔和な顔に戻ると、スクっと立ち上がり窓辺へと歩いて行った。

「カーテンを開けてもいいかしら?」

「それなら、あたしがするよ!」

「そう?」

朝起きて、カーテンを開けるのが好きだ。

もっと言えば、さらに窓も開けて新鮮な空気を部屋に入れ、それを自分の体の中にも通し、

そのまま、開け放たれた窓から外の景色をひとりじいっと見つめている時間が好きだ。

あたしはカーテンを開け、次いで窓も開けた。

「…………。」

「ちょうどオーキド博士の研究所がある方角ね。」

「!!」

つい毎朝の日課通り、

目の前の景色を見ているような、どこか遠くを見ているような不思議な感覚にとらわれていたあたしは

すっかりキクノの存在を忘れていた。

そして、その一言に、自分の想いをぐっと手で掴まれたように思ったあたしは息を飲んだ。

「キクノ、なんであんたここに?」

それでもしばらくすると、他の話題に変えられる言葉が、するりと口から出た。

「あらあら、キクコちゃんったら、おほほ、今頃になって聞くのね?」

「だ、だって、あんた、どう考えてもおかしいじゃないか!」

「おかしくなんかありませんよ。あたしはただキクコちゃんに会いたいと思って、

シロナたちに『ちょっと出かけてきます。』と伝えてきたまでですよ。」

カントーとシンオウまでじゃ、『ちょっと』の距離じゃないだろう。

あたしはそう思ったが、キクノに言っても無意味そうだったので

(どうやって来たのかは知らないが、すでに“ここにいる”のだから、

相手にとっての距離感覚はそうなのかもしれない。)

それ以上強くは言わなかった。

「そもそもあんたに常識は通じないからねえ。」

「ところでキクコちゃん。」

「なんだい?」

キクノは頬に片手を当て、もう片方をお腹に当てて言った。

「私、お腹がすいたわ。」

「ぐっ!」

キクノのマイペースさに、さすがのあたしもずっこけそうになる。

「じゃあ、朝ご飯の準備をしようかねえ。」

 

その後――

何年か振りに一緒に朝食を食べ終えたキクノは

シンオウへと帰って行った。

 

まあ、極たまにならこういう朝もいいものか……ねえ?