拝啓、愛を込めて……
行きの電車を乗り間違え、下りから上りへと向かう。
イライラするキクコの背中をチョンチョンとつつく者がいた。
黙って振り返れば、「どうぞ。」と元気な子どもの声。
いいという間もなく無理やり座らせられるキクコ。
オーキドはひとつ後ろの席で、本を顔に乗せたまま、ぐーぐーと寝ているようだ。
母と子のふたり旅らしく、母親のひざの上からキクコにしゃべりかける少年。
年は7、8才というところか。
無邪気に声をかけてくる少年をムゲにもできず、しぶしぶ話を合わせるキクコ。
「でね、ボクはポケモンが大好きなんだ。」
「そうかい。」
「くさタイプがみずタイプにゆうりで、えーと、でんきわざはじめんタイプにきくんだっけ?」
「それはきかないんだよ。」と答えてやると、少年は「すごい!!」とキクコをほめた。
それから何度かのやりとりの後、少年はキクコを
「おばあちゃん、すごいね!まるでオーキド博士みたいにポケモンに詳しいんだね!!」
とほめたたえた。
(あたしがオーキドみたいだって!?)
キクコにとっては納得がいかないことこの上なかったが、さすがに少年に文句を言うこともできずに黙っていた。
すると後ろの座席から、オーキドの「くっくっ……。」という笑い声が聞こえもれてくるではないか!
カチン!とくるキクコ。
後ろを振り返ってにらみつけたい衝動を何とか抑えて、キクコはぶすっとした顔で黙りこんだ。
少年はキクコのそのような素振りには気がつかず、話を続けた。
「ボクね、ゴーストタイプのポケモンが1番好きなんだ!」
「へえ。」
それには心ひかれるキクコ。
ちらりと少年を見てやれば、少年は目を輝かせながら、キクコの目を見てこう言った。
「だからボク、キクコさんにあこがれているんだ!おばあちゃんは知ってる?キクコさんって四天王で、ゴーストタイプのポケモン使いなんだ!
とってもつよくて!でね、うわさだと、とってもこわい人なんだって!!でもボク、きっとやさしいんだって思っているよ。」
「どうしてだい?」
「だって、ゴーストタイプのポケモンが好きだから!!」
子どもらしい、意見。
思わずキクコの口もとが緩んだ。
「そうかい。」
「だからね、いつかボク、キクコさんとたたかって、かつんだよ!!これ、ボクのゆめ。
あっ!だれにもひみつだよ!おばあちゃんはだまってボクのはなしをぜんぶきいてくれたから、とくべつにおしえてあげる♪」
「それは楽しみだねえ。」
「うん!」
「あっ!着いたわよ!!……あら、ごめんなさい。うちの坊やがご迷惑をかけまして――。」
「いいや。」
「じゃあね、おばあちゃん!たのしかったよ!よい旅を!!」
『よい旅を!!』
そんな言葉、どこで覚えたのだろうか?
ともかく
「ああ、またいつかね。」
「うん、またおしゃべりしようね。」
〜あとがき〜
ある日の外出先で起こった出来事を元にして、その時、紙に書いた文章をほぼそのまま載せました。
その分、話が分かりにくいところがあると思います。
少年のお母さんは寝ていて、キクコと少年がたくさんおしゃべりしていたことを全然知らなかったことや、
最後の少年の一言で書き終わっているので、ちょっとしまりがいまいちなんですが、それも含めて、
当時浮かんだものを書きつづったこの作品の雰囲気が気にいっているので、付け足しませんでした。
ここに書きながら読み返してみて、とても自分らしい作品だと思ったんです。
また、とても自分好みだとも思いました。(笑)
それから、言えることがひとつ……。
電車に乗る時は、行き先や止まる駅をちゃんと見ないとだめです。
(この電車でいいのかな?)と思いながらも、一緒に出かけた人の背中について乗ったら、さあ大変。
「次に止まる駅(下り)まで1時間」の特急列車でした。(アセ)
そして、下りまで1時間。その駅から上り(最初、電車に乗った駅)まで1時間。
この経験とその電車内であったことをミックスして生まれたのがこの作品です。