キクコにキスを

 

 オーキドがキクコにキスをしようとしたんです。

 そうしたら……。

 パーン!!

 思わずオーキドの横っ面を引っ叩いてしまったんです。

 「あっ。」

っという言葉がキクコの口から出る。

 オーキドは文句も言わず、真っ赤な顔をしたキクコに「しょうがないのう……。」と言った感じで苦笑いをしているんです。

 手に触れる時も、肩に手を置くときも、いつもいつも反応がいいので、オーキドは「キクコにとって、スキンシップは不慣れなことだ。」と、認識しているのです。

 それをキクコは知っているからこそ、余計に素直になれなくて、どうしていいのか分からないのが癪に障って悪循環。

 しばらくして、

 「キクコ、わしはこの書類を届けに出かけてくるよ。」

 オーキドはそう言い、部屋から出て行くんです。

 「ああ……。」

とキクコは短い返事をして、いたたまれない気持ちでいっぱいになるんですよ。

 「好きなのに。」、「触れられるのは嫌じゃないのに。」

って思うんです。

 そして、オーキドと入れ替わりに、キクコのゲンガーが外出から帰って来たんです。

 散歩にでも行っていたんでしょうか?

 それとも2人のため――?

 それはさておき……。

 「あ、おかえり。ゲンガー。」

とキクコに呼ばれ、ゲンガーはキクコの側に行きます。

 すると、ぎゅっとキクコはゲンガーを抱き締めた。

 「?」

 勘の良いゲンガーは、(また2人の間に何かあったんだなあ。)と思うんだけれど、あえて言わない。

 そのまま、自分の主さまのしたいようにさせておくのです。

 やや経ってから、主さまがどうやら疲れている様子なので、ゲンガーはそのままキクコに座るようにうながします。

 「そうだねえ。」

と冷たい床にぺたんと座りながら、キクコは相変わらずゲンガーの頭や背中を、愛おしそうになでています。

 それはゲンガーにとって気持ちの良いことだけれど、主さまの元気がないのは悲しいことだから。

 「何があったの?」というように、キクコの目を下からじっと見る。

 「いいや、特に大したことじゃないんだ。」

 キクコはゲンガーの言っている言葉がだいたいは分かるから、「好き」で「大事」だから、ゲンガーには素直に答える。

 「大丈夫ですよ。」

と、今度はゲンガーがキクコの頭をなでた。

 「ありがとう。あんたは本当にかわいいねえ。」

 よりぎゅっとゲンガーにキクコがしがみつくと、ゲンガーも言うのです。

 「主さまもかわいいですよ。特にあの人といる時は、とてもかわいらしい。あの人が憎いくらいに。」

 「そうかい、そうかい。確かに、隙あらばオーキドに総攻撃しそうだものねえ、あんたたちは。」

 「そんなことはしませんよ。ただ、ちょっと妬いているだけです。わたしたちも主さまをそれは好きなのですから。」

 「うれしいよ。さてと……そろそろあいつが帰ってくる頃だ。こんなみっともないところを見られる前に、夕飯の準備でもしてやろうかねえ。」

 「そうですね……。」

 (主さまにはずっとドアの陰から、こちらを覗き見ているあの人がいることは、内緒にしておこう。)

 (キクコは何をしておるんじゃろう?わしのせいか?悩んでおるのか?ああ、でも、かわいい。かわいいのう……。)