旅立ちと見送り

 

(今、言わないと……。)

 

 

「じゃあ、ナナカマド博士によろしく伝えておくれ。」

「ああ。」

「なんだい?浮かない顔して?あんた……まさか忘れ物でもしたんじゃないんだろうね!?」

「いいや。」

「そうかい。」

「……のう、キクコ。」

「ん?」

「……シンオウから……て来たら……。」

「えっ?」

「その、シンオウから、帰って来たら……わしと――。」

 

「オーキド博士〜!電車が出てしまいますよぉ〜!!」

 

「ほら、助手をいつまでも待たせるんじゃないよ!」

「キクコ。」

 

(今、言わないと……。)

 

「あたしはこれ以上、あんたに言うことはないよ。」

「わしは――。」

 

(何と言ったらいいんじゃ?)

(そんなにさびしそうな顔で見つめないでおくれよ。)

 

「……。」

「……。」

 

「オーキド博士〜!!」

 

「ふう。土産を買ってくるからの。」

「土産?あんたねえ、遊びに行くんじゃないんだからね。」

「土産を買ってきて、おまえに届けに行くからの。」

「フン!そういう暇なんてないくせに!!」

「楽しみに待っておるんじゃぞ♪」

「もう冗談はいいから、早く電車に乗りなよ!」

 

「博士〜、えぐえぐ……。」

 

「おお、すまん、すまん。それにしても、そのように泣くことはないじゃろう?」

「ともかく、電車に……。」

「そうじゃな。」

 

「やれやれ、やっと静かになったね。」

 

「夕焼けがきれいじゃのう。」

「はい、本当に。」

「んんっ!?夕焼け!?」

「はい、その通りです。」

「キクコと会ったのは確か昼ごろだったと思うんじゃが?」

「はい、この電車が待ち合わせぎりぎりに間に合う電車です。」

「君、ずっと待っておってくれたのか?」

「はい、おじゃまするのもなんだと思いまして……。」

「そうか、すまんことをしたのう。」

「いいえ、まあ、良かったのではないでしょうか?」

 

(ふ〜む、あの気が短いキクコが、よく長時間もわしのもどかしい態度に付きあってくれたものじゃな。)

 

「くしゅん!……ああ、まったくいつの間に夕方になったんだい!?」