特等席

 

 ある時、主さまのおひざの上で、わたしは甘えておりました。

 ゴロゴロvv

 「なんだい?甘えん坊だねえ。」

 そう言いながらも、のんびりゆったりとしながら、わたしをなでてくれる主さまの表情は、それはお優しいこと。

 ますます、わたしはなつきながら、しばらくそうして過ごしておりました。

 だが――やって来たのです。

 そうオーキド博士がね。

 こちらを見て何か言いたげな相手を気にしつつ、主さまはあえて黙っておりました。

 この相手に対して素直になった主さまを、わたしも主さまとは長いお付き合いですが、見たことがありません。

 またそこがかわいいんですけれど。

 主さまがこの相手と新しい関係を望むならば、応援しなくもないですが、やはりそう易々と譲りたくもなく……。

 でろんと寝そべって、相手を「ニヤリ。」と見てやりました。

 「うぐっ!!」

 「……何だい?」

 とうとう主さまは口を開きました。

 本当は気になって仕方がなかったんですよね?

 「なんでもない。」

 おやおやオーキド博士ときたら、あんなに体を震わせておかわいそうに。

 でも、ここはわたしの特等席。

 さすがにこれは譲れません!

 ところが……。

 控え目にも、オーキド博士ははっきりとこう言ったのです。

 「やっぱりわしもそれしたいのう。」

 「え?」

 主さまはじっくりと考えているようでした。

 わたしをなでる手は止めずに、でも、すぐには答えずにそのまま……。

 (ああ、主さまの心音が速くなった。)

 主さまは、わたしの名前を呼びました。

 わたしは答える代わりに、主さまの目をじっと見つめました。

 (その表情は決心なされたお顔……。)

 わたしはしぶしぶ主さまのおひざの上から下りました。

 いえ、下りようとしたところを主さまにつかまりました。

 (?……主さま?)

 「オーキド。」

 「ん?」

 「………………少しだけだよ?」

 そう言って主さまはオーキド博士に“わたし”を渡しました。

 思わず黙り込む、わたしとオーキド博士。

 「……。」

 「……。」

 主さまはそこで、ちょっとムッとしたようなお顔で、話し出しました。

 「どうしたんだい?せっかく人が大事なポケモンを――。」

 「あ、ああ、すまんな。」

 (それはないですよ、主さま。)

 

 ちゃんちゃん。