猫みみ
ずぎゃ〜ん!!
へんな効果音と共に私は気を失った。
(ね、猫みみだ…と……?)
いつの頃からだったか、いや、一目見た時からおれはおつるさんが好きだった。
若い時でも若くない時でも(おれとて年は取った。)ともかくおつるさん一筋である。
いいや、おれのことはいい。
それよりも――
猫みみ。
おつるさんの頭に紛れもない猫みみが生えている。
あの衝撃は忘れられないだろう。
そして格好悪くも気を動転させて倒れたことも……。
キリのない業務を不覚にも止めて
数時間ぐらいおれは自室のベッドで寝ていた(と後でおつるさんに言われた)。
はっきりとは覚えていないがその間に見た夢。
おつるさんと共に過ごした夢。
ぼんやりと色づいた世界に2人。
周りはまるで雲の中にいるような白くてふわふわした世界。
柔らかい雲に乗っておれの隣にいるおつるさんは
目をつむって足をぶらぶらさせたり、柔和な顔で微笑んだりした。
恥ずかしくも思春期の少年の如くドキドキしていたおれはおつるさんに向けて手を伸ばした。
そして、もう少しで触れそうだというところで目が覚めた。
まだ寝ぼけている。
完全に目を開けても眼鏡がないとよく見えない。
その視界に映った人の姿を
(おつるさんだ。)
そう認識したおれは自然と片手を上げておつるさんに触れていた。
夢だと届かなかったのに、現実では届くなんて本来なら逆な気がする。
何も言わない彼女におれは遠慮なく触れていた。
その時はきっと意識が現実と夢の狭間をうろついていたのだろう。
ふにゃふにゃとした手触りにおれは口元を緩めた。
気持ちいい。
彼女はこんなに温かくて触り心地が良いものなのか。
「猫みたいだ。」
おれは呟き、手をベッドの上に戻した。
するとおつるさんはため息をつき、一言――。
「もう満足したかい?」
「えっ?」
おれはようやく体を起こした。
そして眼鏡をかけ目にしたものは
「猫みみ〜〜〜!!」
思いきり叫んだおれにおつるさんはふう〜っと二度目のため息をつく。
「あっ、その……すまない。」
先ほど(猫みたいだ。)と思ったのはその通りだったからだ。
おれはおつるさんの頭に生えていた猫みみに惹かれてそれを触っていたのだ。
「センゴク、調子はどうだい?」
「どこも何も悪くはない。ああ、すぐに仕事に戻る。」
「そうしてくれると助かるよ。いつまでも元帥の席が空っぽじゃ、果たせない任務が出てくるからね。」
「うむ、すまん。」
彼女は怒ってはいないようだ。
ちょっと呆れ気味ではあるが、猫みみがなくてもあってもおつるさんはおつるさんであった。
(惚れ直したな。)
自分で自分の事をそう評価したおれは、フッと浮かんだ心の声に赤面したのだった。
「ん?本当に平気かい?」
おつるさんがじっとおれの顔を見た。
「あ、あああ……。」
ぎこちなく首を2、3回縦に振りおれは答える。
「……。」
そんな不自然な態度に黙っておれの目を見つめたおつるさんにおれは焦りを感じ、とっさに言った。
「だ、大丈夫だ。おつるさんは猫みみがあってもなくても可愛いと思っているだけだ!!」
何が大丈夫なものか。
おつるさんがぱっと勢い良く下を向いてしまったではないか。
「あー、おつるさ…ん?」
おつるさんの顔を覗き込むように様子見ると、どうにもその顔は赤くなっているとしか言い様がない。
「何見てんだいっ!!」
「いてっ!!」
なぜかおつるさんに頭を派手に叩かれた。
こんなのは見習い時代以来だ。
「まったく……とっとと仕事に戻るよ!」
「おつるさん!?ま、待ってくれ!!」
あたふたとおれはベッドから出ると帽子とコートを手にして、おつるさんの背中を追った。
* |
雨川すみれさまが書かれた「2月22日のにゃんにゃんの日の猫みみネタ」を元に書かせていただきました。 |
書いてもいいですよというOKをしてくださり、うれしい機会をどうもありがとうございます!! |