新境地

 

*センゴクさんとおつるさんの2人が付き合い始めましたな設定。

*サカズキさんの完全な片思いな話。

です。

 

 

 

 

 

 

 

 

「とうとうだよね。」

「ようやくだねェ〜。」

「何がじゃあ?」

「ん?センゴクさんとおつるさんが付き合い始めたの。本部中で噂だよ。」

「それなら、しっちょるわ。」

「……。」

「……。」

「どうしたんじゃ?わしの顔に何かついとるんか?」

「い〜や、今度、3人でうまいもんでも食べに行こうかな、と思ってだけ。」

「それならわっし、良い店知ってるよォ〜。」

「ああ、そう言えば、センゴクさん今日から3ヶ月間本部を離れるんだってね。」

「早速遠距離恋愛だねェ。」

「そうじゃったな……。」

「ダメだよ〜、サカズキ。」

「そうそう、確かにチャンスだけどもォ、そればかりはねェ〜。」

「おんしら、言いたいことがあるならはっきりせい!!」

「「間男はいけないよ。」」

「ま……バカタレがっ!!わしは仕事があるけえ、先にいっちょる!」

「おれたちだって、仕事あるんだけどね。」

「そうだねェ。それにしてもサカズキが心配だよ。」

「あいつ、一途だからな〜。やっぱ、サカズキにとっておつるさんの存在は特別でしょう。」

  

「あのバカタレどもが!!」

「サカズキ、ずいぶんと急ぎ足だね。」

「!つる中将!!」

「そうそう、この前話していた件で聞きたいことがあるんだよ。今日の夜、少し時間をもらえるかい?」

「はい。わかりました。」

  

その後――

  

「サカズキです。」

「お入り。」

「失礼します。」

「わざわざ出向いてもらってすまなかったね。」

「いいえ。」

「今日はやけにかしこまっているね。クザンたちに何か言われたのかい?」

「!?い、いえ、そう言うわけでは……。」

「そうかい?じゃあ、早速だけど――。」

「その件なら、わしは…………。」

  

つる中将――いや、おつるさんとわしの仕事の時間はするすると流れていく。クザンやボルサリーノではこうはいかないだろう。

だが、センゴクさんとなら、わし以上にうまい具合に話は進むに違いない。

2人の知識や経験に、わしの力量が届くはずもない。

何より2人が過ごしてきた歳月には……。

  

「サカズキ!サカズキ!!」

「あ、おつるさん。すみません。」

「まったくどうしたんだい。アンタらしくない。」

わしが途中でだんまりを決めてしまい、せっかくまとまりかけていた話を事もあろうか、聞いていなかったからだろう。

おつるさんの眉間に少ししわが寄っている。

しかしそのあきれながらも、こちらを気にかけてくれている表情を見て、わしは思ってしまった。

おつるさんがかわいいと……。

おつるさんのことが愛おしいと……。

  

自分の中にそのような感情が眠っているなどとは露ほどにも考えた事はない。

ああ、なんてことだろうか。

今、この時になって、わしはわしの感情に真正面からぶつかってしまったのだ。

  

「……。」

「いいよ、この話は後回しでも。」

「つ……。」

「何か飲むかい?温かいお茶でも。そうだ!この前、センゴクからもらった――。」

「要りません。」

なんて嫌な奴なのだろう。センゴクさんの、元帥殿の選んだ物であり、且つ、おつるさんが勧めてくれた物だと言うのに、どうして自分はこうも心が狭いのだろうか?

「それなら、これは……とは言ってもお腹はすいてないかもしれないけどね。」

そう言って、おつるさんがわしの前に置いてくれたのは、イヌの形をしたクッキーだった。

「かわいいだろう。街を歩いている時、偶然見つけてね。アンタを思い出したよ。」

「わしはこんなにかわいくありません。」

「あっはっはっ。誰もアンタをかわいいなんて言ってないよ。ほら、こっちのいかめしい顔をしている方、これなら納得がいくかい?」

おつるさんが指さしたクッキーは先ほどのクッキーと何ら変わりようがない気がする。わざと言っているのだろうか?

それよりも――。

「久しぶりに見ました。」

「え?」

「つる中将が笑っておられるのを……。」

わしはどうしてこのようなことをベラベラしゃべっているのだろう?

「アンタも最初よりかは穏やかな顔になったよ。」

「穏やか?」

「私の部屋に入って来た時、やけに強張った顔をしていたからね。でも、安心したよ。」

「ご心配をおかけして申し訳ありません。」

「ほらほら、また気難しい顔になっているよ!」

「わしはこういう表情が1番慣れとるけえ……。」

「あげるよ。」

「?」

「このクッキー、持っておいき。私のお気に入り。」

「ありがとうございます……つ……おつるさん。」

「うん。良かったら、今度、どの店か教えてあげるよ。いつになるかは分からないけど、休みの日が重なった日にでもね。」

(それはデートのお誘い!?い、いいや、わしは何を考えちょるんじゃ!!)

「そ、そこまで面倒見てもらうわけにはいかんきに。」

「遠慮なんてしなくていいんだよ?」

(以前ならちゅうちょはしても、最後にはこの誘いを受けたじゃろう。じゃが、今となっては……。)

「センゴクさんに悪いきに。」

「あぁ、なるほどね。じゃあ、クザンとボルサリーノも誘えば文句はないね!」

「お、おつるさん。そ、そこまでせんでも……。」

  

しばらく経ち――

  

「あ〜、コレでしょ!?おつるさんが言っていた店って!」

「そうだよ。」

「かわいいねェ〜。サルの形をしたクッキーもないかな?そうしたら、戦桃丸くんのおみやげに買っていくよォ。」

「それなら、桃の形がいいんじゃないの?あと、さすがにキジの形は無理だよね?」

「おつるさん、無理言ってすまんきに。」

「無理を言ったのは私だよ。ほら、あれ。」

「イヌの形じゃのう。わしはこれにするけえ。」

「サカズキだけずるいねェ〜。」

「前からおつるさんにそのクッキーのこと教えてもらっていたんじゃないの?」

「そ、それは……。」

「2人だけの秘密かい、サカズキ?」

「サカズキったら、おれたちのいない間におつるさんとの親睦を深めちゃってまあ〜。」

「別に深い意味などありゃせんわい!!」

「そりゃ当然だ。」

「おつるさん、わっしらにも教えてくださいよ〜。」

「う〜ん、残念だけど、それは言えないねえ……ほらっ、いかめしい顔のクッキーがあるよ。」

「どれですか、おつるさん?」

「全部かわいく見えるけどねェ〜。」

「あらら、サカズキが笑ってるよ。」

「本当だねェ。わっしらもうれしいよ。」

「ほんと、ほんと。おつるさんにはかなわないよ。」

  

自分の気持ちを知った。同時にそれはかなわないとも知った。

『このクッキー、持っておいき。私のお気に入り。』

そう言って、わしの手に乗せてくれたクッキーの重みと、かすかに触れた彼女の手の温かさに、思わずその手を握り返したい衝動に駆られた。

それでもどうにか堪えたわしの激情の一片を、彼女は何かしら感じ取ったようであった。

――が、そのまま変わらずわしを受け入れてくれた。

  

遠く感じた。

距離はいつも以上に近いのに。

(もう完全に手の届かない人になったのだ……。)

と思いしめされた。

  

それでもわしの想いは変わらない。日常も変わらない。

それならば、わしはわしで、わしの想いを通す。密やかに一人で……。

  

(いかん。わしが気がつく以前に、クザンとボルサリーノは気づいておるようじゃった。)

  

訂正――

  

一人ではなく、どうやら3人で――が正しいらしい……。