若い頃から現在でも
センつるの若い頃と現在の時のお話です。 |
ねつ造ストーリーなので、ご注意ください。 |
俺は今日振られた。 おつるさんに・・・・・・だ。
出会った瞬間から好きだった。そう自覚するのにはだいぶ時間がかかったが、己の気持ちに気がついた時には、全身が赤くなったものだ。 それくらい好きだった。
「お見合い」というアクシデントの真っ最中に俺が叫ぶように告白をして、コング元帥殿に思いきり頭を殴られた。 黙って見送れるわけなんかなかった。理性なんて保っていられなかった。 急に彼女が海兵をやめて、どこぞの見知らぬ男の妻になるのかもしれないと思ったら、何の考えもなしに海軍を飛び大していた。
けれど、あっさり振られた俺。 「今はそういうことは考えられないから。私にはやるべきことが、したいことがあるの。」
厳しい顔つきでまるでこちらを睨みつけるかのように(そりゃあ、コング元帥殿の顔に泥を塗ったんだから、おつるさんが怒るのも当然のことだ。)、俺の一世一代の告白をあっさりと粉々に蹴散らしてくれた。 先方に俺がしでかした無礼のせいで、頭を下げて謝るコング元帥殿の背中を俺は口を一文字に結んで見ていた。 彼女も実にくやしそうな顔をしていた。そして、こんなことを言ったらおつるさんに引っぱたかれるのは間違いないだろうが、どこか泣きそうな横顔でもあった。
俺は胸が痛んだ。 そして、反省した。 けれど彼女への想いは止められなかった。むしろ加速する一方だった。
帰り道でコング元帥殿が、俺の肩をガンガン叩きながら、「おまえ、派手に振られたなあ。」と言い、大笑いした。 その後ろでつかず離れず歩いてた彼女にコング元帥殿は振り返って言った。 「なあ、つる。そんなにこいつじゃだめなのか?」 「・・・・・・。」 「悪い奴じゃあないぞ。まあ、任務ほったらかして、おまえの元に来るこの無鉄砲さ。勇気があるんだか、ただの馬鹿なんだか、あっはっは、いいな。 それくらいの一途さがあれば、将来、海軍を引っ張っていくのにふさわしい男になるかもな。」 「お言葉ですが、コング元帥殿。果たしてそうでしょうか?」 淡々とした物言い。俺は穴があったら入りたかった。 「おっ!つるも言うなあ。いい、いい。もうひとりガープも入れて、おまえらで新しい海軍を作っていけ、な?」 コング元帥殿は怒るどころかうれしそうに肩を揺らしている。 そして、急に足を止めた。無論、おつるさんと俺も立ち止まった。 くるりと全身を後ろに向けて、コング元帥殿はおつるさんと向き直った。 「ちょっとくらいは妥協してもいいんだぞ。あっ、でも、センゴクじゃなくてもいいぞ。ガープもおもしろいからな。」 何事かと思えば・・・・・・。仕事の話かと思えば・・・・・・・・・・・・ガープでも、か。 (それもそうかもな。) ため息をついてしまった俺をおつるさんが見逃すはずもない。 「そこまでおっしゃるのでしたら――。」 彼女は横目で通りを歩く人々に目をやった。 彼女の目線の先に自分の視線も合わせてみれば、白髪の老夫婦が楽しそうにのんびりと歩いていた。 (まさか?) 「それでしたら、70歳くらいになったら考えます。」 (やっぱりか!!) 俺は眉間にしわを寄せ、額に手をやった。 彼女は恋をする気はないのかもしれない。恋は突然だ。だから「今」の彼女がそうでも「明日」の彼女は違うかもしれない。 けれど、そうだとしても、その相手は「俺」じゃな気がしてきた。 コング元帥殿は「ふうむ。」と腕を組み、唸った。 「それもいいかもな。」 どうやらコング元帥殿はそれで納得したようだ。 「次は70か……。」 ついついそう一言漏らしてしまった俺。 完全に無意識だった。 それでもいつでも冷静沈着と言われた彼女を戸惑わせるのには十分効果があったようで、ふと俺がおつるさんの顔を見れば、彼女は頬をほのかに朱色に染めていた。 「え?おつるさん?」 「よかったなあ、センゴク。まだチャンスはあるようだな。」 「私は!た、ただ70歳になってからでも、私に…その…気持ちを伝えてくれる人がいたのなら、その時は返事を考えなくもないと……そ、そう思ったまでです!!」 「あ〜、うんうん。そうか、そうか。実に喜ばしい。おまえは感情が薄いところがあるから少しばかり引っかかっていたんだ。センゴクとガープばかりが目立っているからな。 それに巻きこまれているおまえの苦労もわからなくはないが……さっきも言った通り、悪い奴じゃない。信用していいぞ。 ただし、今後、センゴクがこんな真似をしたら、その時は、つる、おまえが叱ってやれ。“70にもなって何をしているんだ!?”っとな。はっはっはっはっは……。」
そう言われたのがつい数日前なことな気がする――。
俺は奇しくも以前と同じ場所に立って、「お見合い」をしていたおつるさんに、未だに変わらぬ想いをぶつけるように伝えた。 今度の彼女は怒りはしなかった。ため息をついただけだ。
「アンタ、自分が元帥だっていう立場を分かっているのかい?」 「明日からは“元帥”じゃない。」 「だったら今日は“元帥”だろう。」 「好きなんだ!」 「アンタねえ。」 「好きなんだ、どうしようもないんだ!!」 「はああああ〜。」
これ程まであきられた上に、盛大なため息をつかれたのは初めてのことだ。 (ああ、おつるさんはやはり俺じゃだめなのか!?)
ギュウっと目をつぶる。
そんなやり取りをした帰り道。今回はコング元帥殿はいなかった。いや、現在の元帥は俺なのだが・・・・・・。 そして明日からは元帥は変わるのだが――。
(おつるさんはこれからどうするのだろうか?) まだそれさえも聞いていない。“元帥”であったにもかかわらずそれさえ知らない。
おつるさんが足を止めた。俺も慌てて歩くのを止めた。
(何て言われるのだろうか?)
「考えてみるよ。」 「へ?」 「まずは考えるところから始めてみるよ。」 「おつるさん?」 俺はおつるさんの言うことの意味が理解ができなかった。 「馬鹿だね、アンタも。私よりも遥かに立場上のこともあって、見合いの話なんてしょっちゅうあったのに、全部断って散々、五老星にもあれこれ言われてきたのにさ。 よりによってまだ私のこと・・・・・・。いい加減に目を覚ましな。」 「それは無理だ。」 「もうおばあさんだよ。」 「なら、俺はおじいさんだ。」
どちらも譲らない会話。 なぜか目を合わせようともせずに、おつるさんも俺も、話している相手のことを今すぐに放ってしまいたいようだ。 (本当は誰より離したくないくせに、俺はこわがっているのか?) 俺の気持ちがそうだとしたら、俺を避けようとするおつるさんの心情は何なのだろう?
しばらくすると、ちょうど俺たちの横を、昔のように、それは楽しそうに同じ歩幅で歩いて行く夫婦の姿が目に入った。 それはおつるさんもだったらしい。
確かに年は取った。立場も変わった。世界も変わった。 けれど、おつるさんへの想いは変わらない。今でもより一層強くなるばかりだ。
「時間をおくれ、アンタにとっては長い時間かもしれないけど・・・・・・。すぐには答えが出そうもないから。」 「分かった。」
前に進んだ。断られるだけじゃない。希望が見える。 俺にとってそれらは、とてもうれしいことに違いなかった。 |